自慢ではありませんが、私はアルバイトも含めると、これまで、福祉事業をしている法人5か所を渡り歩いてきました。高齢者施設も障害者施設も経験しましたし、通所系の施設と入所系の施設どちらも経験しました。地域福祉といわれるような領域の仕事も経験しました。そして、仕事で関わる様々な人から様々な福祉の現場の話を耳にしてきました。
今回は、これまで見聞きした経験を通して私が考える
“入所施設のサービスが改善されにくい理由”と“通所施設のサービスが改善されやすい理由”
をまとめてみたいと思います。
この記事の内容は、福祉業界への就職・転職を検討している方
あるいは、福祉サービスの利用を検討している方や、そのご家族の方の施設やサービス選びの参考になるかもしれません。
では本題に入ります。
入所系の施設と通所系の施設を比較して思うことの一つが、
入所系の施設は、職員が利用者に対して偉そうで、知識や支援技術の水準が古い傾向にあり、
通所系の施設は、入所系に比べると向上心が高い傾向にある
ということです。
高齢者福祉は業界的に障害者福祉よりは進んでいて洗練されているので、多少はこの傾向が弱いと思いますが、それでも、高齢者施設、障害者施設に共通して見られる傾向だと思っています。
現代の福祉分野の法律では、福祉サービスにおける事業所と利用者の関係は、対等な契約によるものとされています。
つまり、昔のような「施設が利用者をお世話してあげる」という構図ではなく、「利用者が施設を選びサービスを買う」という構図なのです。
だから、施設の側では、サービスの質を良くする努力をしなければいけないのです。
それにも関わらず、昔からの名残か、向上心を持たないままふんぞり返っている施設と施設職員がいるのです。表沙汰にならない虐待まがいなことも現実には色々なところに潜んでいます。
特に入所系サービスの施設に見られる傾向だと私は思っています。
入所系の施設が旧態依然となりやすく、通所系の施設は変化がしやすい主な理由は3つあると思います。
利用者の要介護度・障害程度の違い
一般的に、入所系の福祉サービスを利用する方は障害の程度が重く、通所系の利用者は軽い傾向にあります。
具体的に言うと、高齢者福祉では、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、グループホームを利用する方には認知機能が低下している方が多くなります。
障害者福祉では、入所支援を利用しているような方です。知的障害や自閉症状が強い方が多く、理解することや伝えることが苦手な傾向にあります。
こうした方は、一般的な感覚からすると人権を侵すような対応をされていても、その対応がいかに酷いかを理解できなかったり、不快な思いをしたとしても、それを他者や外部に伝えることができなかったりするのです。
なので、利用者からの訴えが出にくい構造があります。
さらに、利用者の障害が重いという点は、利用者からの訴えが出にくい構造の他に、
家族からの訴えも出にくい構造にも繋がっています。
どういうことかというと、
介護の必要性が高かったり、重い障害を抱えている方の家族には、本当は自宅で一緒に暮らしたくても、自宅での生活が難しいため施設にお願いしているという方が少なくありません。
つまり、入所系の施設はそうした家族にとっては最後の砦のような存在でもあるのです。
だから家族は、施設の対応が不快であったり、サービス内容に疑念を抱いても、簡単には施設の利用をやめられないというのが現実です。
そして、施設との関係性を損なわないように、引っかかることがあっても苦情を言うのは控えるという心理が働くのは想像に難くないでしょう。
ということで、入所系の施設はサービスの改善を迫られる機会が比較的少なくなるのです。
施設外部からの目の入りやすさ
通所系の施設はその名の通り、基本的に利用者は自宅から施設に通い、自宅に帰ります。
高齢者福祉でいうと、デイサービスやデイケア、小規模多機能型居宅介護
障害者福祉でいうと、生活介護施設、就労支援系の施設などです。
これらの施設の利用者は、その日に施設であったことを自宅で家族に話すことができます。
また、一人暮らしの方であっても、福祉サービスを利用している方は全員、通っている施設とは別の相談機関(※高齢者分野での居宅介護支援事業所や障害者分野での相談支援事業所)を利用することになっているので、通っている施設で不快なことがあった場合は、そこに訴えることができます。
つまり、通所系の施設は、外部からの目が入りやすいのです。
なので、外部から見て問題があれば指摘されやすいですし、施設の側でも、外部の目を常に意識しなければなりません。
反対に入所系の施設は、施設の職員が日常どのような対応をしているかを家族が知るのは難しいです。
前述の相談機関の存在も、外部の目という意味では機能しないことが多いです。
なぜなら、入所施設を持っているような法人は、法人内に相談機関も併置している場合が多く、
そうした法人は、法人内で全てのサービスを提供できるので、適切な表現ではないかもしれませんが、法人内に利用者を囲い込むことができるのです。
話は逸れますが、こうした面があるため、風通しの良い施設にしたいからという考えで法人内に相談機関を置かないと決めている法人もあります。
収入の安定度・参入の難易度
高齢者・障害者分野の福祉施設の収入は、簡単に言うと、どれだけの利用があったかで決まります。
本当に大雑把な説明ですが、多くの利用者が多くの時間を利用すれば施設の収入は増えるし、反対に利用が少なければ収入は少なくなります。
入所系の施設は、毎日、利用者が施設で生活しているわけですから、基本的に決まった収入が見込めます。
反対に、通所系の施設は利用数が安定しにくく、収入も不安定です。
例えば、利用者が他に用事があるからという理由で利用を休めば、施設の収入は減ります。
精神障害の利用者が多い通所系の施設は、利用者の病状が不安定になり、長期的に休むなんてことがザラにあります。すると、施設の収入には大ダメージです。だから、こうした施設は利用者の体調や精神状態に注意を払う必要性がより高いのです。
また、入所系と通所系での参入の難易度の違いも、競争原理が働きやすいか否かの違いに繋がっていると思います。
というのは、入所系の施設の設立するためには、建物や職員配置の条件が厳しく、それなりの資金と準備が必要になります。要するに、参入のハードルが高いのです。
対して通所系の施設は、入所系に比べると参入のハードルが高くありません。そのため、様々な事業体の企業・団体が施設を設立しています。
こうした理由から、入所系の施設は、施設の入所定員に対して多くの利用希望があり、待機人数が定員の倍なんていう事態もあったりしますが、
通所系の施設は、地域の施設どうしで利用者の取り合いのようになっているケースも稀ではありません。
この競争の生まれやすさが、通所系施設全体のサービスの質を押し上げる要因の一つとなっているのだと思います。
反対に、入所系の施設は、こうした理由でも旧態依然になりやすいのです。
以上、 “入所施設のサービスが改善されにくい理由”と“通所施設のサービスが改善されやすい理由” を書いてきました。
これから入所系の施設の利用を検討している方や、そのご家族にとっては不安になるようなことを書きましたが、
最後に、サービスの質がより良い施設を選べるように、私なりに施設を選ぶうえでのポイントを2点挙げてみたいと思います。
①入所系だけでなく通所系のサービスも持っている法人
②法人内の各施設が同じ敷地内に隣接しておらず、できれば、それぞれが違う圏域にある
①について
通所系のサービスも持っている法人だと、この記事で書いたように外部の目が入りやすい部分があるので、入所系のみの法人よりは法人としての質を期待できる。
でも注意しておきたいのは、通所系・入所系どちらも持っていたとしても、通所施設の利用者のほとんどが法人内の入所施設の利用者である場合があります。その場合は、入所施設のみの法人と考えたほうが良いかもしれません。
②について
法人内に複数の拠点があると、拠点間での人事異動があるためか、あるいは様々な意見や経験の交流があるためか、法人全体として洗練されているような気がします。(あくまで私個人の感じ方)
あと、それなりの規模がある法人は、生え抜き職員だけではなくて、他の業界や、同じ福祉業界でも他の法人を経験してきた職員の割合が多くなる傾向にあるので、色々な風が吹き込みやすいと言えます。
それが良い意味で働くか悪い意味で働くかは、その法人の文化次第ではありますが、施設選びの軸の一つにはなると思います。
今回は私にしては長い文章となってしまいました。
ですが、色々な現場を見聞きしてきたからこそ書けた記事だと思います。
これから福祉サービスの利用を検討している方
もしくは、福祉業界への就職を考えている方の参考にもなると思います。
良い施設と巡り合えることをお祈りしております。