施設の日常の中に潜む虐待には見えないけど虐待かもしれない光景

今回は、利用者のことを真面目に考えているつもりでも、実は虐待になっているかもしれない光景というテーマで話をしたいと思います。

“虐待”と聞くと、身体的暴力とかネグレクトなどが思い浮かびやすいのではないでしょうか。

言い方が適切ではないかもしれませんが、そうしたわかりやすい虐待だけではなく、利用者を守るため、あるいは利用者の変化を促すため、もしくは、利用者の気持ちを心地よくするためと思って行っている支援の中にも、視点を変えると虐待と捉えられる言動があるのです。

意識を高く持って仕事をしているつもりでも、色々な視点があることを知っておかないと、自信を持って“虐待に見えない虐待”をしてしまう可能性があります。ですから、簡単ではありませんが、色々な施設で働いてみたり、他の施設から転職してきた職員の意見や行動から学ぶなど、謙虚に色々な視点を持とうとする姿勢が大切になります。

ではいくつか具体的に虐待には見えないけど虐待になっているかもしれない光景を挙げていきたいと思います。

身体的虐待になっているかもしれない光景

①利用者の身を守るつもりの腕組み

歩行が不安定な方や突然危険な動きをする可能性がある方の身を守るつもりで腕を組むことがあります。これは、ごく自然に見える行動ですし、必要な支援でもあります。

しかし、利用者側になってみると、自分で歩きたい、放っておいて欲しいという感情があるかもしれません。

職員としては怪我をさせるわけにはいかないので予防的にそうするのですが、それが利用者の気持ちとマッチしている場合ばかりではないということを頭の片隅に置いておきたいところです。捉えようによっては身体拘束になるかもしれません。

②“自由”“開放的”という施設の方針を全ての利用者に当てはめる

現在の施設運営では、居室に施錠をすることは身体拘束になるので原則禁止です。基本的には利用者の行動の制限を可能な限り少なくするというのが現在の福祉業界の流れです。

ですが、“自由”“開放的”という理念が行き過ぎて、利用者によっては苦痛になったり、ときには身に危険をもたらすことがあります。

例えば、入所系の施設で24時間、建物に施錠をせず、24時間利用者が建物内も敷地外も自由に行き来できる施設があります。自由で開放的でイメージは良く、利用者にとってはメリットしかないように思えるかもしれないのですが、これが利用者にどのようなデメリットをもたらすのか。

例えば、自閉症状が強い方の中には、周囲で他者が自由に動き回っている状況が落ち着かない方がいます。また、居場所が決められていないことで不安になる方もいます。

自閉症だけでなく、認知症の方にも当てはまることでは、自由に動き回れて、自分がどこにいれば良いのか分からず、気持ちが落ち着かないまま彷徨った結果、ケガをすることもありえます。

これは本人のせいではなく、施設側の障害への配慮不足ということになるかもしれません。

また、何かに拘りがあり、外を徘徊する方がいますが、全ての方が拘りたくて拘っているわけではありません。拘りに苦しんでいるかもしれません。「拘りもその方の個性だ」などと、分かったような顔で言っている施設管理者もいますが、早く拘り行動を止めさせることが利用者の精神的安定に繋がる場合もあります。

“制限”ではなく“秩序”を利用者に保証することも大事な視点です。

精神的虐待になっているかもしれない光景

①女性職員が男性利用者に不必要に触れる

男性職員が女性利用者の身体を不必要に触れるのは分かりやすくセクハラになりますが、反対に、女性職員が男性利用者に触れるのはセクハラとは認識されにくいと思います。

女性職員が親しみを込めて、場合によっては自分に懐かせようという計算があって男性利用者にボディタッチをするのは、相手が本当に喜んでいればそれほど問題ではないかもしれませんが、利用者によっては、表現しないだけで不快かもしれません。

男性は女性に触れられると誰でも喜ぶと思っては間違いです。性的虐待になっている場合もあるので注意が必要です。

②利用者の伝わりにくい訴えに「何言っているかわからない」と返す

伝えることが苦手な利用者が何かを伝えようとしているのに対して、「何言っているの?」「意味が分からない」などと返すのは、精神的虐待になりかねません。

言葉が出なかったり語彙が少ない利用者でも伝えたいという気持ちは誰でも同じです。一生懸命何かを伝えようとして、相手に「意味が分からない」と言われたら悲しいですよね。利用者が何を言っているか理解できないのは職員の力不足だと思ったほうがいいです。

日頃から相手を観察し意思疎通がしやすい関係づくりをするのも職員の技量です。

まとめ

他にも虐待には見えないけど虐待になっているかもしれない光景は施設の日常にたくさん潜んでいますが、今回挙げる例はこのくらいにしておきます。

とにかく、虐待は日常に潜んでいます。

支援と虐待は紙一重です。

虐待しながら支援をしているとも言えます。

そんなこと考えていたら支援なんかできないとヤケにならないでください。

そのくらい謙虚でいなければいけないということです。

これから福祉業界を志す方には、ぜひ身につけていて欲しい感覚ですし、

勤めている施設の日常に違和感があり、この記事に共感いただいた方にも、忘れないでいましょうと言いたい感覚です。

今回は以上です。

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